聴こえの支援から考える、地域産業の新たな可能性
■新年の団らんで気づいた「技術」と「制度」の壁
松本に住むおば(母の妹)が別所温泉の北向観音へ初詣に来てくれました。近くに住む別の妹も加わり、久しぶりに賑やかなお茶の時間となりました。
松本のおばは加齢だけでなく、ある疾患の影響もあり、耳が少し不自由です。その日は、普段使っているものとは違う最新型の補聴器をモニター利用していました。値段はかなり張るようですが、なかなか具合が良いようです。腕のアップルウォッチで調整が効くその補聴器はデンマーク製でした。
あまり知られていないかもしれませんが、実は補聴器の世界市場はデンマークやスイスなど欧州勢が圧倒的なシェアを占めています。福祉先進国である北欧では、聴覚ケアへの公的支援も手厚く、それが産業の発展を後押ししてきた歴史があるのです。
■工作機械エンジニアの視点:なぜ日本は医療部品を輸入するのか?
私は長年、工作機械メーカーでエンジニアとして働いてきました。その経験から常々感じていた日本の産業構造の歪みがあります。それは、日本は医療機器の輸入超過国である、という事実です。
胃カメラなどの診断機器において日本は世界をリードしていますが、インプラント、ボーンスクリュー(骨接合用ネジ)、人工関節といった治療用機器(処置用機器)の分野では、海外製品に大きく依存しています。
厚生労働省の資料によると、日本の医療機器の貿易赤字は年間約8,000億円〜1兆円規模で推移しており、特に前述の治療系デバイスの輸入割合が高いのが現状です。 一方で、これら海外製の医療部品を作っている工作機械の多くは日本製。つまり日本製の工作機械が海外へ輸出され、そこで作られた医療部品を日本が高いお金を払って輸入しているのです。
■福祉と産業を政治でつなぐ
なぜ、国内でこれらの産業が育ちにくいのでしょうか。その一因として、私は、制度と市場の問題があると考えています。例えば補聴器の場合、日本でも障害者総合支援法による公費負担制度はありますが、認定のハードルは非常に高く設定されています。軽度・中等度の難聴では自己負担が重く、普及の足かせとなっています。私のおばも、公費負担を得ることはできないため自己負担は相当な金額です。(両耳セットで100万円を超えることも!)
耳が遠くなると会話が減り、認知機能や生活の質(QOL)の低下を招きます。これを防ぐための用具に政治がもっと積極的に補助を出せばどうなるでしょうか。利用者が増えれば国内市場が広がり、企業は安心して参入できます。
■上田から医療産業の革命を
私たちの上田地域には、世界に誇る精密加工技術の集積があります。自動車部品も医療用部品も、実は使用する工作機械に大きな違いはありません。加工する対象が鉄でもアルミでも、また医療用部品に多く使われるチタンであっても、使う機械は同じなのです。
しかも、私が所属していたような自動盤メーカーには、単に製品としての「機械」を作るだけでなく、厳しい安全規格に対応するナレッジや生産管理のノウハウがあります。この経験を基に、例えば現在は自動車部品を製造している地元の企業へ、インプラントや補聴器部品といった「医療・ヘルスケア産業」への転換を技術面からコンサルティングし、地域産業のアップデートを後押しすることができます。
QOL向上のための福祉支援を充実させ、それによって生まれる需要を「地元のものづくり力」で満たす。政治がこのサイクルの呼び水となることで、高齢者が元気に暮らせる地域づくりと、高付加価値な産業の育成を同時に成し遂げられるはずです。日本の医療産業は遅れているのではない、これから伸びる余地があるのです。
技術畑出身の私だからこそ描ける成長戦略を、ここ上田から発信してまいります。
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